系図と聞くと、「飛ばして読んでいます。」「斜め読みします。」という声をよく耳にしますよね。
遠い異国の地に住む私たちには、読んでも「…だから何…?」というくらいよく分からず、ともすれば(こんなの必要ないんじゃないの?マタイが系図から始まらなければ、めげずに読むのに…。)とさえ思ってしまいます。
【ルカの系図】
新約聖書の四福音書は、主イエスの公生涯が記されています。しかし『ルカの福音書』だけは、天使ガブリエルからの『受胎告知』や『12歳の少年イエス』の記述など、他の三福音書にはない記述があります。
著者ルカは『十二弟子』でも『十二使徒』でもありません。彼は聖書著者40人以上いる中で唯一の異邦人だと言われていますが、神のみことばはユダヤ人に託されていますので、ルカだけ『例外』ということはないでしょう。詩篇147:19~20
またルカは、パウロの良き同労者でもありました。コロサイ4:14から、ルカは医者であったことが分かります。
コロサイ4:14ー愛する医者ルカ、それにデマスが、あなたがたによろしくと言っています。
伝承によれば、彼はシリヤのアンテオケの出身であり、画家でもあったとされています。
医者という職業柄、時系列に沿って、非常に正確に記していること、また文体からかなり教養のある人物だったことが分かります。
ではどのようにして、受胎告知や少年時代の出来事を知り得たのでしょうか?そのようなことを知っているのは、イエスの母マリヤしかいませんよね?!
だとするなら、ルカの福音書3章の『系図』は当然、『母マリヤの系図』ということになります。ただ、イスラエルでは父系で記すのでマリヤの名前が出て来ないのです。
ルカ3:23ー教えを始められたとき、イエスはおよそ三十歳で、人々からヨセフの子と思われていた。このヨセフは、ヘリの子、順次さかのぼって、
*『人々からヨセフの子と思われていた』…人々から思われていただけで、この系図の『ヘリ』はヨセフの義父、妻マリヤの父親です。この系図はマリヤの系図であることを証明すると同時に『ヨセの子だと思われていただけで、実際はマリヤの子ですよ』という証明なのです。
なぜルカはわざわざイエスの母マリヤの系図を載せたんでしょう…?!
マタイの福音書にある『父親だと思われていたヨセフの系図』があれば、イエスをユダ族ダビデの家系であることを証明するには十分だったはずでは…?!
それは『原初福音』と言われる創世記3:15と深い関わりがあるからなのです。
cf 創世記3:15ーわたしは、おまえと女との間に、
また、おまえの子孫とおんなの子孫との間に、
敵意を置く。
彼は、おまえの頭を踏み砕き、
おまえは、彼のかかとにかみつく。
子孫(胤)…通常は男性につく言葉で、男性の系図を意味します。
それをここでは「女の子孫」と言っています。つまりメシア(救い主)は、人類の女の中から生まれる者としての預言です。
その後何百年も経って、イザヤ書7:14で「メシアは処女から生まれる」と明らかになります。つまりメシアである方は、生物学的には母親から生まれるが、父親はいないということです。通常の結婚ではなく、女性のみから生まれる方という意味です。
【解釈学】*重要!
同じ節に同じ言葉が2回出て来る場合は、同じ意味となります。
・女の子孫(胤)→メシアの誕生は、超自然的な懐妊による。
・お前(サタン)の子孫(胤)→超自然的な誕生という理解で解釈することになる。
ですから御子イエスが『聖霊により処女マリヤから誕生した』ように、将来的には、黙示録で語られている7年間の患難時代に出て来る「反キリスト」も、サタンを父として『悪霊により女を通して』登場(誕生)するということになるのです。
Ⅱテサロニケ2:9ー不法の人の到来は、サタンの働きによるのであって、あらゆる偽りの力、しるし、不思議がそれに伴い、
*反キリストの生涯は、キリスト・イエスに敵対するものなので、すべてにおいてキリストの真似をする形となります。なので主イエスを知ることにより、サタンの策略を見抜く力もついてきます。
ルカの系図が、御子イエスは母マリヤを通してのみ誕生したことを証明するもう一つのポイントは、『ダビデの子孫』にあります。
ルカ3:31ーメレヤの子、メナの子、マタタの子、ナタンの子、ダビデの子、
ナタン…ダビデ王とウリヤの妻だったバテ・シェバとの間に誕生したソロモンの弟。
1歴代誌3:4~5ー六人の子がヘブロンで彼に生まれた。ダビデはそこで七年六ヶ月治め、エルサレムで三十三年治めた。
エルサレムで彼に生まれた者は次のとおりである。シムア、ショバブ、ナタン、ソロモン。この四人はアミエルの娘バテ・シュアによる子である。
*母マリヤも『ダビデの家系』であることが証明されると同時に、養父ヨセフの『ダビデの家系』とは違うことがここに証明されたのです。それは『ダビデ→ナタン』へと受け継がれていく家系であるということです。
*それはまた、聖霊によって御子イエスの母となった『マリヤの処女性の強調』ともなっています。その理由をマタイの系図が証明しています。
【マタイの系図】
マタイの福音書は、ユダヤ人に『メシア(救い主)』として来られたキリスト・イエスを紹介するために書かれました。ユダヤ人の系図は男系なので、そこに四人もの女性の名前が入り、四人全員が『異邦人』であるということは異常とも言えます。
しかしマタイはあえて四人の名前を入れています。それは『御子の十字架の贖いはユダヤ人だけでなく、異邦人にも及ぶ』ということを視野に入れているからです。
・マタイ1:3ータマル…舅ユダによってパラスとザラをもうけたカナン人女性。cf 創世記38章。
・マタイ1:5ーラハブ…カナン人、エリコの遊女。cf ヨシュア記2章。
・マタイ1:5ールツ…モアブ人。ユダヤ人エリメレクとナオミの長男マフロンの妻。後にレビラート婚(申命記25:5~6)によりボアズと結婚する。cf ルツ記。
・マタイ1:6ーウリヤの妻…バテ・シェバのこと。ダビデ王と姦淫の罪を犯したため、その罪をも明らかにするために『ウリヤの妻』と表記されている。ヘテ人。cf Ⅱサムエル記11~12章。
*注目は、6~7節の『ソロモン』と11節の『エコヌヤ』です。
『ダビデ→ソロモン→エコヌヤ』の家系には、重大な預言がなされていました。
エレミヤ22:28~30には、『ソロモン→エコヌヤの家系からメシアは出ない』ことが預言されています。
エコヌヤ…エホヤキン王のこと。『エホヤキン』が即位後の王としての名称であるに対し、『エコヌヤ』は個人名。
エホヤキン王(エコヌヤ)…父エホヤキムが死に、息子のエホヤキンが18歳で王として即位すると、バビロンの王ネブカデネザルは直ちに行動を起こし、エルサレムを攻め、わずか3ヶ月で降伏させました。そのためエホヤキン王の統治は、たった3ヶ月と10日間でした。BC597年、第二次バビロン捕囚にエホヤキンとその家族、王族、有能な者たち1万人が、バビロンに連行されました。
cf エレミヤ52:31~34ーバビロンのネブカデネザルの息子エビル・メロダクが即位した年に、王の権威を保持するために恩赦が与えられました。それにより、エホヤキンは獄舎から出され、その後はバビロンの王の保護のもとに一生を過ごしたとあります。
*ダビデ→ソロモン→エコヌヤ(エホヤキン)の子孫であるヨセフの家系からは、メシアである御子イエスの誕生はあり得ないのです。ですから、マタイの福音書の系図は『人々からヨセフの子と思われていたイエスは、実はヨセフの血を継いだ子どもではない』ということを証明する系図になっているわけです。
http://osusowake.hatenablog.com/entry/2016/11/18/104012
*マタイの福音書のゾロバベルは、バビロン捕囚後、第二神殿を建てたゾロバベル(“バビロンの種”の意)ですが、ルカの福音書に登場する『ソロバベルの子、サラテルの子』とは同名別人です。