『獄中書簡』と言われるパウロの書簡のひとつ。エペソ3:1。
ピリピ人への手紙ーピリピ1:7、コロサイ人への手紙ーコロサイ4:10、ピレモンへの手紙ー9節ーの四書簡は、パウロがローマで獄中生活を送っていた AD61年頃に書かれました。その頃、コロサイの教会に異端が起こり混乱が生じたために、パウロはその周辺の教会にも手紙を送る必要を感じたと思われます。
いくつかの写本に1:1『エペソの』という宛先が抜けていること、エペソにいるパウロの友人たちへの挨拶のことばがないことから、この手紙は小アジアの諸教会で回覧されたと考えられます。この手紙は、テキコによって届けられました。エペソ6:21~22。
黙示録2章にも出て来るエペソの教会は、小アジア、今日のトルコにありました。ローマ帝国のアジア州の首都、宗教の中心地でもあり『アルミテスの神殿』があったことで知られています。
エペソ人への手紙は、前半と後半に分けられます。
前半…1〜3章ー神学的議論。(神の恵みに対する賛美)
後半…4〜6章ー実践の勧め。(神の恵みに応答した生活)
エペソ1:1ー古代ギリシャ世界の書簡形式にのっとって、自己紹介から書き始めています。
神のみこころによる…神の主権を強調した言葉。cf エペソ1:5、1:9、1:11、5:17、6:6。
キリスト・イエスの使徒パウロ…パウロは『異邦人の使徒』であり、マッテヤを入れた『十二使徒』は『ユダヤ人の使徒』です。
使徒…使者、大使、特別な使命を受けて派遣された者、の意。
ガラテヤ1:1ー使徒となったパウロー私が使徒となったのは、人間から出たことでなく、また人間の手を通したことでもなく、イエス・キリストとキリストを死者の中からよみがえらせた父なる神によったのです。ー
ガラテヤ2:8ーペテロにみわざをなして、割礼を受けた者への使徒となさった方が、私にもみわざをなして、異邦人への使徒としてくださったのです。
エペソの聖徒たちへ…宛先。『聖徒』とは、自分の努力や行ないによって、聖なる領域に達した人のことではなく、御霊によって新生体験をしたすべての人のことです。つまり、神の恵みにより、信仰によって『聖徒』となるのです。
そして『聖徒』は、キリスト・イエスにあって『忠実』な人でもあります。
エペソ1:2ー恵み…何かをしたからではなく、値なしに一方的に神様から受ける祝福のこと。
平安…キリストの福音(1コリント15:3~5)を信じた結果、聖霊によって与えられる心の安らぎ。
エペソ1:3ーまずパウロは、父なる神の御名をほめたたえています。なぜなら神が『天にあるすべての霊的祝福をもって私たちを祝福してくださった』からです。
パウロはエペソにいる聖徒たちの『物質的祝福』について、神をほめたたえているのではなく、『霊的祝福』に焦点を当てています。cf エペソ1:7~14。
*『繁栄の神学』ではありません。
エペソの聖徒たちは、ユダヤ人ではなく『異邦人』です。異邦人であっても『霊的祝福』に与っているのです。
エペソ1:4ー世界の基の置かれる前からキリストのうちに選び…ここはいろいろと物議をかもす聖句ですよね。
ある人たちは「世界が造られる前から、救われる人を神があらかじめ選んでいるのなら、なぜ伝道する必要があるのか?」と言います。そのように言う人々は、神が『全知全能なる方』だということを忘れています。
キリストの福音がすべての人に届けられることを、神は望まれています。マタイ28:19、ヨハネ3:16他。
と同時に、全知全能なる神はあらかじめ誰がこの福音を受け入れ、救われるかをご存知であり、その人の名前を既に天地が造られる前から『小羊のいのちの書』にその名を記しておられるのです。cf 詩篇139:16、黙示録13:8、17:8。
それは神の好みにより「この人は救おう。あの人は滅びへ。」と決めるというものではなく、神の招きに誰が応答するかということであり、応答した者を救うという意味で『選んだ』と表現しているのです。
そしてその『選び』の目的は、救われた者を御前に聖く、傷のない者にするためです。
エペソ1:5ーご自分の子にしようと…異邦人であるエペソの教会の信者たちも、私たちもキリストを信じる信仰によって『神の子』とされました。
ヨハネ1:12ーしかし、この方を受け入れた人々、すなわち、その名を信じた人々には、神の子どもとされる特権をお与えになった。
ローマ8:17ーもし子どもであるなら、相続人でもあります。私たちがキリストと、栄光をともに受けるために苦難をともにしているなら、私たちは神の相続人であり、キリストとの共同相続人であります。
エペソ1:6ーこの『神の選び』の素晴らしさを知った人は、神をほめたたえ、賛美せずにはいられません。
イザヤ43:7ーわたしの名で呼ばれるすべての者は、
わたしの栄光のために、わたしがこれを創造し、
これを形造り、これを造った。
イザヤ43:21ーわたしのために造ったこの民は、
わたしの栄誉を宣べ伝えよう。
エペソ1:7ー贖い…①神を神とせず、自己中心に生きている『罪』の身代わりとして、キリストの血による『身代金』を支払うこと。cf 1コリント6:20、黙示録5:9。
②律法の下にある呪いを取り除くこと。cf ガラテヤ3:13、4:5、ヤコブ2:10~11。
③罪の束縛からの解放。罪の奴隷から自由にすること。cf 1ペテロ1:18~19。
ローマ6:17~18ー神に感謝すべきことには、あなたがたは、もとは罪の奴隷でしたが、伝えられた教えの基準に心から服従し、罪から解放されて、義の奴隷となったのです。
*奴隷は主人に対して “NO!” と言う権利はありません。解放されれば、罪に対してのみ “NO!” と言うことができるのです。
罪の赦し…信者は、御子の血によって赦しを受けています。
コロサイ1:14ーこの御子のうちのあって、私たちは贖い、すなわち、罪の赦しを得ています。
エペソ1:8ー【別訳】神はあらゆる知恵と思慮深さをもって、この恵みを私たちの上にあふれさせ…*新改訳聖書脚注参照。
エペソ1:9ー奥義…旧約聖書では隠されていたが、新約時代になって初めて明らかにされた真理。
エペソ1:10ー『奥義』の内容…天にあるものも地にあるものも、いっさいのものが、キリストにあって一つに集められること。
いっさいのもの…ユダヤ人と異邦人、天の御使いをも含む。
*エペソ人への手紙の強調点。
その結果:ピリピ2:9~10ーそれゆえ、神は、キリストを高く上げて、すべての名にまさる名をお与えになりました。
それは、イエスの御名によって、天にあるもの、地にあるもの、地の下にあるもののすべてが、ひざをかがめ、
すべての口が、「イエス・キリストは主である。」と告白して、父なる神がほめたたえられるためです。
コロサイ1:27ー神は聖徒たちに、この奥義が異邦人の間にあってどのように栄光に富んだものであるかを、知らせたいと思われたのです。この奥義とは、あなたがたの中におられるキリスト、栄光の望みのことです。
コロサイ2:2ーそれは、この人たちが心に励ましを受け、愛によって結び合わされ、理解をもって豊かな全き確信に達し、神の奥義であるキリストを真に知るようになるためです。
エペソ1:11ー神の選びと目的:【新共同訳】キリストにおいてわたしたちは、御心のままにすべてのことを行なわれる方のご計画によって前もって定められ、約束されたものの相続者とされました。
ローマ8:17ーもし子どもであるなら、相続人でもあります。私たちがキリストと、栄光をともに受けるために苦難をともにしているなら、私たちは神の相続人であり、キリストとの共同相続人であります。
コロサイ1:12ーまた、光の中にある、聖徒の相続分にあずかる資格を私たちに与えてくださった父なる神に、喜びをもって感謝をささげることができますように。
エペソ1:12ー神の栄光をほめたたえる者となるため…神が人間を造られた目的。cf イザヤ43:7、43:21。
私たち…パウロをはじめ、ユダヤ人信者。メシアニックジュー。
cf 申命記4:7~8ーまことに、私たちの神、主は、私たちが呼ばわるとき、いつも、近くにおられる。このような神を持つ偉大な国民が、どこにあるだろうか。
また、きょう、私があなたがたの前に与えようとしている、このみおしえのすべてのように、正しいおきてと定めとを持っている偉大な国民が、いったい、どこにあるだろう。
エペソ1:13ーあなたがた…エペソの教会の異邦人信者。
神は、ユダヤ人信者同様に、異邦人であってもキリストを信じる者には『聖霊の証印』を押してくださるのです。
エペソ1:14ー聖霊の証印の意味:異邦人信者もユダヤ人信者同様に『御国を受け継ぐ』ことの保証。
御国…ここでは千年王国。(その先にある永遠の天の御国は、黙示録21章になるまで隠されています。)
エペソ1:15ー私たちの信仰の対象:主イエス。
救われている証拠は、すべての聖徒たちに対する愛によって明らかにされます。
ヨハネ14:15ーもしあなたがたがわたしを愛するなら、あなたがたはわたしの戒めを守るはずです。
ヨハネ15:12ーわたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合うこと、これがわたしの戒めです。
エペソ1:16ーエペソの教会の信者たちは、キリストの戒めを守っていました。そのことを聞いたパウロは、絶えず彼らのために感謝の祈りをささげていたのです。
エペソ1:17ー19節までが、パウロの祈りの内容です。
①神を知るための知恵と啓示の御霊が与えられるように。
cf ヨハネ17:3ーその永遠のいのちとは、彼らが唯一のまことの神であるあなたと、あなたの遣わされたイエス・キリストとを知ることです。
*知識として知るだけでなく、経験を通して神を知ること。
②知恵と啓示の御霊が与えられるように。
神のご計画の素晴らしさを知るためには、知恵と啓示の御霊が与えられなくては理解することができません。
a) 神のご計画…使徒26:17ーわたしはこの民と異邦人との中からあなたを救い出し、彼らのところに遣わす。
b) 証しの目的…使徒26:18aーそれは彼らの目を開いて、暗やみから光に、サタンの支配から神に立ち返らせ、
c) 伝道の目的…使徒26:18bーわたしを信じる信仰によって、彼らに罪の赦しを得させ、聖なるものとされた人々の中にあって御国を受け継がせるためである。
d) 神のゴール…人類救済ではなく、神の栄光です。cf イザヤ43:7、43:21、エレミヤ13:11、1コリント6:20、10:31。
エペソ1:19ー神の全能の力…その源は『キリストの復活』です。クリスチャンは、このキリストの復活を信じる信仰によって、すべての望みを得ているのです。パウロ自身もそうでした。
cf ピリピ3:10~11ー私は、キリストとその復活の力を知り、またキリストの苦しみにあずかることも知って、キリストの死と同じ状態になり、
どうにかして、死者の中からの復活に達したいのです。
エペソ1:20ー23節までは、現在のキリストの姿です。
①死者の中から復活されています。
②天上で父なる神の右に座しておられます。
右の座…栄誉ある座。同等の位を表わす。cf 1列王記2:19、詩篇110:1。
*使徒7:56ーこう言った。「見なさい。天が開けて、人の子が神の右に立っておられるのが見えます。」
殉教するステパノの霊を、イエスは『立って』迎え入れてくださいました。
エペソ1:21ー③すべての支配、権威、権力、主権の上におられる。
次に来る世…千年王国。イエスが『王の王』として治められる『御国の時代』のこと。
エペソ1:22ー④いっさいのものを足の下に従わせておられる。
⑤神はそのキリストを『教会』にお与えになりました。
*教会…すべてのキリストを信じる者のこと。キリストの花嫁なる教会。普遍的教会。(地域教会には、未信者も反対者もいます。)
エペソ1:23ー⑥組織としての地域『教会』は、『キリストのからだ』です。
全世界を支配されているキリストのご臨在が、キリストをかしらとする教会の中に繁栄され、その教会を通してキリストが働かれるのです。