信者個人宛ての中でも『Ⅰ、Ⅱテモテへの手紙』『テトスへの手紙』が、牧会書簡と呼ばれる公な内容となっているのに対し、『ピレモンへの手紙』はあくまでもピレモン個人に対する内容となっています。
1
私はこの道を迫害し、男も女も縛って牢に投じ、死にまでも至らせたのです。
ルステラとイコニオムの兄弟たちの間で評判の良い人であった。
*ギリシャ人を父とし…聖書的には、父方がユダヤ人でないとイスラエルの民とは認められません。そのため、テモテは異邦人扱いとして、異邦人への使徒となったパウロが書簡を送っています。しかし、テモテの母方はユダヤ人であったため、信仰的にユダヤ人として生きる選択肢がありました。
*ピレモン…パウロの伝道によって回心した人。ピレモンへの手紙1:19参照
2
また、姉妹アピヤ、私たちの戦友アルキポ、ならびにあなたの家にある教会へ。
*あなたの家にある教会…ピレモンは自宅を解放して、集会を開いていました。
初代教会時代は、信者個人の自宅を解放し、家の教会として集会を開いていました。
1コリント16:19ーアジアの諸教会がよろしくと言っています。アクラとプリスカ、また彼らの家の教会が主にあって心から、あなたがたによろしくと言っています。
コロサイ4:15ーどうか、ラオデキヤの兄弟たちに、またヌンパとその家にある教会に、よろしく言ってください。
姉妹アピヤと戦友アルキポは、その家の教会に集う人々でした。アピヤがピレモンの妻だったかどうかは、聖書に記述が他にないのでわかりません。
3
私たちの父なる神と主イエス・キリストから、恵みと平安があなたがたの上にありますように。
パウロの挨拶
*恵み…神から来るもの
*平安…主にある平安
ヨハネ14:27ーわたしは、あなたがたに平安を残します。わたしはあなたがたにわたしの平安を与えます。わたしがあなたがたに与えるのは、世が与えるのとは違います。あなたがたは心を騒がしてはなりません。恐れてはなりません。
6
私たちの間でキリストのためになされているすべての良い行いをよく知ることによって、あなたの信仰の交わりが生きて働くものとなりますように。
7
私はあなたの愛から多くの喜びと慰めとを受けました。それは、聖徒たちの心が、兄弟よ、あなたによって力づけられたからです。
と同時に、パウロは『ピレモンの信仰の交わりが生きて働くものとなる』ことを望んでいました。
8
私は、あなたのなすべきことを、キリストにあって少しもはばからず命じることができるのですが、こういうわけですから、
10
獄中で生んだわが子オネシモのことを、あなたにお願いしたいのです。
*獄中で…直訳:拘束の中で
*オネシモ…『役に立つ者』の意
16節によると、オネシモはピレモンの家の奴隷でした。
11
彼は、前にはあなたにとって役に立たない者でしたが、今は、あなたにとっても私にとっても、役に立つ者となっています。
*役に立たない者…ピレモンの家の奴隷であったオネシモは、18節からピレモンの家に損害を与えたか、負債を負わせたため、逃亡していたと思われます。
*役に立つ者…『オネシモ』という名前の意味。ここには、パウロの言葉遊びがあります。
かつては、ピレモンにとって役に立たない奴隷だったオネシモですが、回心した今は奴隷としてだけでなく、信仰の友としても、主人であるピレモンにもパウロにとっても『役に立つ者』となりました。
12
そのオネシモを、あなたのもとに送り返します。彼は私の心そのものです。
*あなたのもとに送り返します…奴隷であるオネシモは、主人であるピレモンのものなので、主人のもとに送り返すということ。
*彼は私の心そのもの…パウロのオネシモに対する愛の深さを表現
13
私は、彼を私のところにとどめておき、福音のために獄中にいる間、あなたに代わって私のために仕えてもらいたいとも考えましたが、
パウロは、主にある『役に立つ兄弟』としてオネシモを自分のところにとどめて、福音伝道のための働きに仕えて欲しいとも考えていました。
14
あなたの同意なしには何一つすまいと思いました。それは、あなたがしてくれる親切は強制されてではなく、自発的でなければいけないからです。
しかし、オネシモはピレモンが所有する奴隷の身なので、主人であるピレモンの同意が必要だということ。
ピレモンが自発的に奴隷オネシモを、主にある兄弟としてパウロに仕えるようにするのが『親切』だということ。
15
彼がしばらくの間あなたから離されたのは、たぶん、あなたが彼を永久に取り戻すためであったのでしょう。
オネシモ(ピレモンの家の物を盗み、逃亡した…と言われています)が、ピレモンから離されたことにも、神様の摂理、ご計画があったことを示唆しています。
ローマ8:28ー神を愛する人々、すなわち、神のご計画に従って召された人々のためには、神がすべてのことを働かせて益としてくださることを、私たちは知っています。
16
もはや奴隷としてではなく、奴隷以上の者、すなわち、愛する兄弟としてです。特に私にとってそうですが、あなたにとってはなおさらのこと、肉においても主にあっても、そうではありませんか。
*もはや奴隷としてではなく…オネシモの身分は、今でもピレモンの家の奴隷であることに変わりありません。
*奴隷以上の者、すなわち、愛する兄弟として…しかし、信仰によって霊的にオネシモは生まれ変わり、キリストにある愛すべき兄弟となりました。
*肉において…ピレモンにとってオネシモは、家の奴隷としての身分だけでなく
*主にあっても…信者として、主にある兄弟となったオネシモは、同じ主を信じるピレモンにとって単なる『奴隷』以上の存在になったということ。
1コリント7:22ー奴隷も、主にあって召された者は、主に属する自由人であり、同じように、自由人も、召された者はキリストに属する奴隷だからです。
ローマ6:17ー神に感謝すべきことには、あなたがたは、もとは罪の奴隷でしたが、伝えられた教えに基準に心から服従し、
罪から解放された、義の奴隷となったのです。
18
もし彼があなたに対して損害をかけたか、負債を負っているのでしたら、その請求は私にしてください。
オネシモがピレモンに与えた損害は、パウロが負うということ。
このパウロにキリストの姿が重なります。
マルコ10:45ー人の子がきたのも、仕えられるためではなく、かえって仕えるためであり、また、多くの人のための、贖いの代価として、自分のいのちを与えるためなのです。」
1コリント6:20ーあなたがたは、代価を払って買い取られたのです。ですから自分のからだをもって、神の栄光を現しなさい。
1テモテ2:6ーキリストは、すべての人の贖いの代価として、ご自身をお与えになりました。これが時至ってなされたあかしなのです。
19
この手紙は私パウロの自筆です。私がそれを支払います――あなたが今のようになれたのもまた、私によるのですが、そのことについては何も言いません。――
*この手紙は私パウロの自筆です…当時の借用証書に用いられた形式
*あなたが今のようになれたのもまた、私による…ピレモンが現在のような信仰に到達し、家の教会を開くほどにまで成長したのは、パウロによる弟子訓練があったため。
20
そうです。兄弟よ。私は、主にあって、あなたから益を受けたいのです。私の心をキリストにあって、元気づけてください。
*あなたから益を受けたい…パウロの願いを聞き入れて欲しい、ということ。
*私の心をキリストにあって元気づけてください…願いが聞かれ、喜びに満たされること。
21
私はあなたの従順を確信して、あなたにこの手紙を書きました。私の言う以上のことをしてくださるあなたであると、知っているからです。
*従順を確信して〜私の言う以上のことをしてくださるあなたである…ピレモンが信仰によって、主にあってどうすることが正しいのかを判断することができる、というパウロの確信と期待。
22 それにまた、私の宿の用意もしておいてください。あなたがたの祈りによって、私
もあなたがたのところに行けることと思っています。
*私の宿の用意もしておいてください…パウロは、近い将来釈放されると予想していました。
23
キリスト・イエスにあって私とともに囚人となっているエパフラスが、あなたによろしくと言っています。
*エパフラス…パウロの伝道によって回心し、コロサイ、ラオデキヤ、ヒエラポリスの教会の基礎を築き、迫害に耐え、偽りの教えと戦い、祈りの人でもありました。
ピレモンへの手紙が書かれたとき、エパフラスもパウロと共に囚人となっていました。
コロサイ1:7~8ーこれはあなたがたが私たちと同じしもべである愛するエパフラスから学んだとおりのものです。彼は私たちに代わって仕えている忠実な、キリストの仕え人であって、
わたしたちに、御霊によるあなたがたの愛を知らせてくれました。
コロサイ4:12~13ーあなたがたの仲間のひとり、キリスト・イエスのしもべエパフラスが、あなたがたによろしくと言っています。彼はいつも、あなたがたが完全な人となり、また神のすべてのみこころを十分に確信して立つことができるよう、あなたがたのために祈りに励んでいます。
私はあかしします。彼は、あなたがたのために、またラオデキヤとヒエラポリスにいる人々のために、非常に苦労しています。
24
私の同労者たちであるマルコ、アリスタルコ、デマス、ルカからもよろしくと言っています。
*マルコ、アリスタルコ、デマス、ルカ…コロサイ4:10, 14でも彼らの名前が列挙されています。
コロサイ4:10ー私といっしょに囚人となっているアリスタルコが、あなたがたによろしくと言っています。バルナバのいとこであるマルコも同じですーーこの人については、もし彼があなたがたのところに行ったなら、歓迎するようにという指示をあなたがたは受けています。ーー
コロサイ4:14ー愛する医者ルカ、それにデマスが、あなたがたによろしくと言っています。
Ⅱテモテ4:10ーデマスは今の世を愛し、私を捨ててテサロニケに行ってしまい、また、クレスケンスはガラテヤに、テトスはダルマテヤに行ったからです。
25 主イエス・キリストの恵みが、あなたがたの霊とともにありますように。
パウロは、主人であるピレモンに損害を与え、逃亡してきたオネシモに福音を伝え、神の家族となるように導き育てました。そして今、ピレモンとオネシモを主人と奴隷としてだけではなく、神の家族、主にある兄弟として受け入れるようにと和解を懇願する手紙を記しました。ピレモンとオネシモとの仲介者になっています。
パウロはこのキリストに倣っているのです。
そして、パウロは書簡の中で次のように勧めています。
1コリント4:16ーですから、私はあなたがたに勧めます。どうか、私にならう者となってください。