ダニエル11:1ー10章でダニエルに使信を伝えた天使は、かつて天使長ミカエルを助けたことがありました。それがここでの意味であり、ダニエル書6章の内容です。
メディア人ダリヨスの元年…この時点から2年前のBC539年に、この天使はミカエルを力づけるために霊的戦いに参戦しました。その結果、バビロニア帝国は倒れ、メド・ペルシャ連合帝国が興りました。つまり霊的戦いの結果、地上の支配者が交代したのです。
ダニエル11:2ーダニエル書11:2~12:4までは『終わりの日』の預言が続きます。
三人の王…ペルシャにはクロス王の後に、カンビュセス、スメルディス、ダリヨス・ヒュスタスペスの三人の王が起こりました。
四番目の王は、この三人の王よりもはるかに富む者となり、その富によってギリシャと戦うようになります。この第四の王が、クセルクセス(エステル記のアハシュエロス王)です。
*クセルクセス…ギリシャ名。アハシュエロス…ペルシャ名:“偉大な人” の意。
BC486年、ダリヨス1世の後を次いで王に即位。即位2年目にエジプトを、3年目にインドからエチオピアまでを統治するようになりました。
cf エステル記1:1ーアハシュエロスの時代のことーこのアハシュエロスは、ホドからクシュまで127州を治めていた。ー
ホド…インドの西境。インダス川付近。クシュ…エチオピアの北部地方。
cf エステル記1:4ーそのとき、王は輝かしい王国の富と、そのきらびやかな栄誉を幾日も示して。180日に及んだ。
cf エズラ記4:6ーアハシュエロスの治世、すなわちその治世の初めに、彼らはユダとエルサレムの住民を非難する一通の告訴状を書いた。
*ユダヤ人エステルは、アハシュエロス王の王妃となり、ユダヤ民族の危機を救いました。
アハシュエロス王の即位から4年後のBC480年、ギリシャへの侵攻を試みるも敗北し、ペルシャ滅亡のきっかけとなりました。
BC465年、暗殺されました。
ダニエル11:3ーひとりの勇敢な王…ギリシャのアレクサンドロス大王のこと。マケドニアの王フィリポスⅡ世の息子で、アリストテレスを家庭教師として3年間教育を受けました。BC336年に父が暗殺されたため、わずか20歳の若さで王位に就きました。(BC336~323年在位)
BC334年ーグラニコス川で、BC331年ーガウガメラの合戦でペルシャ帝国に勝利し、さらに進軍。西はギリシャから東はインドまで広がる一大帝国を築きました。
ギリシャ帝国が押し進めたヘレニズム政策の結果、ギリシャ語が地中海沿岸地方の共通語となりました。
ユダヤ人人口が多かった都市の一つ、アレキサンドリヤでへブル語聖書がギリシャ語に翻訳されました。72人の学者が72日間で翻訳したことから『セプトアンギュンタ=七十人訳』と言われています。
ダニエル11:4ー12年8ヶ月の治世の間、大きな権力をもって治め、思いのままふるまいましたが、突如この世を去ったのです。
BC323年、アレクサンドロス大王はバビロンで急死し、帝国は4人の将軍たちによって分割されました。
彼の子孫のものにはならず…彼には二人の息子がいましたが、権力争いのために暗殺されてしまいました。
cf ルカ12:20~21ーしかし神は彼に言われた。『愚か者。おまえのたましいは、今夜おまえから取り去られる。そうしたら、おまえが用意した物は、いったいだれのものになるのか。
自分のためにたくわえても、神の前に富まない者はこのとおりです。』
ダニエル11:5~20は、四分割された帝国の中で、南の王(エジプト)と北の王(シリヤ)の争いを預言しています。
ダニエル11:5ー南の王…プトレマイオス1世(BC323~285年)のことです。
その将軍の一人…アレクサンドロス大王の将軍、セレウコス1世(BC312~280年)のことです。セレウコス1世が『北の王』となります。
ダニエル11:6ー南の王…エジプトの王プトレマイオスⅡ世。南の王の娘…ベルニケ。
北の王…アンティオコスⅡ世。
何年かの後…エジプトもシリヤも王が変わっています。それぞれ『新王』が治めるようになり、二つの国は同名を結び、和睦をするためにエジプトの王女ベルニケが北の新王と結婚しました。
北の王のもう一人の妻ラオディケの暗躍により、エジプト王女ベルニケは離縁させられてしまいます。ラオディケは夫であるアンティオコスⅡ世を毒殺し、自分の息子セレウコスⅡ世を王にし、邪魔者であるベルニケとその息子は殺害されました。
ダニエル11:7ーこの女…殺されたベルニケ。この女の根から一つの芽…ベルニケの兄弟、南の王プトレマイオスⅢ世。(BC246~226年)
北の王…セレウコスⅡ世。
ダニエル11:8ーベルニケの兄弟、プトレマイオスⅢ世は北の王のとりでに進軍し、セレウコスⅡ世の軍隊を打ち負かし、偶像や尊い器など多くの戦利品をエジプトに運び去りました。
ダニエル11:9ー北の王…アンティオコスⅡ世も子、セレウコスⅡ世カリニコス。エジプト侵略を試みましたが、失敗に終わりました。
ダニエル11:10ーその息子たち…セレウコスⅢ世とアンティオコスⅢ世。
敵のとりで…ガザにあった砦。
【北の王位継承】
セレウコス Ⅱ 世
⇩
セレウコス Ⅲ 世(長男。BC223年ー殺害される。)
⇩
アンティオコス Ⅲ 世(弟)…BC198年、プトレマイオス軍を撃破し、イスラエルの支配権を奪還。
ダニエル11:11ー南の王…プトレマイオス・フィロパトール。
ダニエル11:12ー南の王プトレマイオスは、北の大軍を連れ去ると、おごり高ぶりました。
cf 箴言16:18ー高ぶりは破滅に先立ち、心の高慢は倒れに先立つ。
ダニエル11:13ー何年かの後…ラフィアの戦いの12年後、BC205年。
ダニエル11:14ーあなたの民の暴徒たち…北の国シリヤに加担して、エジプトを滅ぼそうとしたユダヤ人たち。
エジプトを倒そうとしましたが、失敗しました。
ダニエル11:15ー城壁のある町…シドン。
BC198年、北の王アンティオコスⅢ世によって陥落しました。
ダニエル11:16ー麗しい国…イスラエル。
北の王は遂にイスラエルの地に立ち、そこを絶滅しようとしました。
ダニエル11:17ー北の王アンティオコスⅢ世は、相手の南の国エジプトと和睦しようと娘のひとり、クレオパトラを与えてエジプトを滅ぼそうとしましたが、うまく行きませんでした。
ダニエル11:18ー島々…地中海の島々。
ひとりの首長…ローマ海軍の長、ルキウス・スキピオ。
ダニエル11:18~19ー北の王アンティオコスⅢ世は、BC187年にシュシャンで暗殺されました。
ダニエル11:20ーひとりの人…アンティオコスⅢ世に代わり、息子セレウコス四世が王位を継承しました。
数日のうちに、怒りにもよらず、戦いにもよらないで、破られる。…財務長官のヘリオドロスに毒殺されました。
旧約聖書には、天の御国やキリストを本体とする『型』だったり、『影』だったりする記述がたくさんあります。それを真似するかのように、患難時代に現れる反キリストも『型』(影)を持った。それがアンティオコス・エピファネスなのだ‼ 歴史的に彼がした事と同じようなことを、反キリストがやる事になるのです。
ダニエル11:21ーひとりの卑劣な者…アンティオコス・エピファネス。
*エピファネス…現神王、の意。
国の尊厳は与えられない…彼はセレウコス4世の弟で、正統な王位継承者ではなかったため。
北の国シリヤのセレウコス王朝には、13/26人が『アンティオコス』の名前を名乗りました。『アンティオコス・エピファネス』はアンティオコス4世(BC175~163年在位)です。
アンティオコス4世は、その残忍さのゆえに『エピファネス』ではなく、『エピマネス(狂人)』と揶揄されました。南の国エジプトのプトレマイオス王朝を圧倒し、ユダヤを支配下に治めました。
ダニエル11:22ー契約の君主…ユダヤの大祭司オニアスⅢ世。
オニアスⅢ世の弟ヤソン(ギリシャ名:イエス)は、アンティオコス・エピファネスに賄賂を贈り、ユダヤの生活習慣をギリシャ化(ヘレニズム運動)することを約束し、兄のオニアスⅢ世を追放し、大祭司職に就きました。
しかし僅か3年後のBC172年、ヤソンの弟メネラオスは、ヤソンよりも多額な賄賂を贈ることを、アンティオコス・エピファネスに約束して、大祭司職を横取りしてしまいました。
ダニエル11:23ーアンティオコス・エピファネスは、近隣の同盟国を欺きながら勢力を得ていきました。
ダニエル11:24ー彼は配下に治めた自国の肥沃な地に侵入し、その地の産物や財宝を略奪し、賄賂として用いてエジプト侵略に備えました。
ダニエル11:25ーエピファネスは大軍勢を率いて、南の国エジプト征服を試みましたが、敵国の激しい抵抗と、身内軍の中から反逆者が出た事によって失敗に終わりました。
ダニエル11:26ーエピファネスのごちそうを食べる仲間うちから反逆者が出て、多くの者が倒されます。
ダニエル11:27ー北の国シリヤのエピファネスと南の国エジプトのプトレマイオスの二人は、表面上友好的な態度で食卓につきましたが、心の中は互いに悪事を図っていました。
ダニエル11:28ー聖なる契約…モーセ契約による律法のこと。
エジプト征服計画が失敗に終わったために、エピファネスは怒りながら帰国の途につきますが、その途中ユダヤを襲い、欲しいままに略奪しました。
この時の出来事が、旧約聖書の『外典』第一マカベア書1:20~28、第二マカベア書5:11~17に記されています。それによると、エピファネスは8万人のユダヤ人を殺し、4万人を奴隷として連行しました。
ダニエル11:29ーBC169年、第二回エジプト侵略があり、ここでは第三回のエジプト侵略、BC168年の出来事です。この時は、前回、前々回の時のような成果を収めることはできませんでした。
ダニエル11:30ーなぜなら、ローマ軍による介入があったからです。
キティム…キプロス島を中心とした地域。そこからローマの軍船がエジプトに来ていました。
ローマ軍に対して勝ち目がなかったため、エピファネスは落胆して引き返しました。そこからシリヤに帰るためにはユダヤを通過しますが、この時もまた彼の怒りの矛先はユダヤ人に向けられました。
エピファネスは、ユダヤの習慣を止めさせ、ギリシャ化するように命令を出しました。
ダニエル11:31ー荒らす忌むべきもの…ゼウス像(天空神)。
エルサレムの神殿でのささげ物を禁止し、さらに神殿にゼウス像を安置。ユダヤ人にシリヤの神々を拝むようにと要求しました。
*反キリストも同じことをします。cf ダニエル9:27、マタイ24:15。
ダニエル11:32ーモーセの律法に基づくささげ物の禁止、安息日や割礼なども廃止されました。代わりにユダヤ人にとっては忌むべきものである豚をささげ、神殿の祭壇を汚しました。
堕落させる…エピファネスの兵士たちは、神殿内で淫行まで行なうようになりました。
cf 申命記23:17ーイスラエルの女子は神殿娼婦になってはならない。イスラエルの男子は神殿男娼になってはならない。
ダニエル11:33ー民の中の思慮深い人たち…祭司の家系であったマタティヤとその息子のユダ・マカベアが立ち上がり、ユダヤ人たちを指導して、反乱を起こしました。
ダニエル11:34ーそして遂にエルサレムを奪還し、神殿からゼウス像を取り去り『宮潔め』をしました。
このことを記念するのが、『ハヌカの祭り』です。旧約聖書外典『マカベア書』に記述があります。BC165年12月に祭壇の奉献式が行なわれました。
新約聖書になると、この祭りは『宮潔めの祭り』として登場します。ユダヤ人たちは、12月頃になるとクリスマスではなく『ハヌカの祭り』を祝っています。
cf ヨハネ10:22ーそのころ、エルサレムで宮きよめの祭りがあった。
ダニエル11:35ーこの試練がユダヤ人を襲う理由は、
①終わりの時まで、彼らを練るためであり、
②彼らを清め、
③白くするためです。
cf ヘブル12:6~7ー主はその愛する者を懲らしめ、受け入れるすべての子に、むちを加えられるからである。
訓練と思って耐え忍びなさい。神はあなたがたを子として扱っておられるのです。父が懲らしめることをしない子がいるでしょうか。
*ここまでは、アンティオコス・エピファネスに関する預言であり、すべて成就しました。続く36~45節の預言は、患難時代に現れる『反キリスト』に関する預言です。つまり、アンティオコス・エピファネスは『反キリストの型』なのです。
ダニエル11:36ー反キリストは、①思いのままにふるまい、②神々より自分を高め、③大いなる者とし、④あきれ果てるようなことを語り、⑤憤りが終わるまで栄えます。
cf Ⅱテサロニケ2:2~4…自分こそ神だと語り、黙示録13:1~8…放漫なことを語り、ダニエル7:25…いと高き方に逆らうことばを吐き、ゼカリヤ13:8~9…患難時代に生きているユダヤ人の2/3が殺されます。
ダニエル11:37ー反キリストは、サタンを神として礼拝します。御子が御父を敬ったように、反キリストはサタンを敬うのです。
ダニエル11:38ーとりでの神…軍事力を神とすること。
先祖たちの知らなかった神…軍事力や戦争を神とすること。
ダニエル11:39ー外国の神…サタン。城壁のあるとりで…エルサレム。
反キリストはエルサレムを征服し、地上を支配し、彼に従う者には国土を分け与えます。
cf マタイ4:10…神の子イエスは、サタン礼拝を拒みました。
cf Ⅱテサロニケ2:8~10…反キリストはサタンを礼拝し、この世の栄華を手に入れます。
*反キリストは、御子イエスの真似をするか、真逆をすることが分かります。
ここに『悪の三位一体』があります。
御父 vs サタン(悪魔)。
御子 vs 反キリスト。
御霊 vs 悪霊(偽預言者)。
ダニエル11:40ー終わりの時…患難時代の終わり。
南の国…リビア(ルブ人)やエチオピア(クシュ人)など北アフリカ諸国が、反キリストと戦いを交えます。
北の王…反キリスト。反キリストは多くの国々を倒して行きます。
ダニエル11:41ー麗しい国…イスラエル。反キリストは、イスラエルに攻め入りますが、エドムとモアブ、アモン(現ヨルダン)だけは、被害を免れます。
特にペトラ(別名:ボツラ)は、反キリストも興味を示さないほど何もない地で、黙示録12章によると、反キリストによる迫害を避けて、イスラエルの残された者たちはそこに逃げ込み、神から養われます。
cf ミカ2:12。
ダニエル11:42ー反キリストは、エジプトをはじめ北アフリカで戦争を行ないます。
ダニエル11:43ー彼は、エジプトの宝物を手に入れ、ルブ人(リビア)とクシュ人(エチオピア)が付き従います。
ダニエル11:44ーエジプトの王以外に殺されるのは、東の王(バビロン)と北の王(シリヤ)です。計3人の王が殺されます。このことはダニエル書7章で預言されています。cf ダニエル7:8、20、24。
ダニエル11:45ー海…地中海と死海。麗しい山…エルサレム。
反キリストは、地中海と死海に囲まれたエルサレムに本拠地を置きます。そして遂に戦死します。
黙示録によれば、反キリストはサタンによって復活させられます。
cf 黙示録13:3ーその頭のうちの一つは打ち殺されたかと思われたが、その致命的な傷も直ってしまった。そこで、全地は驚いて、その獣に従い、
そして残りの7人の王たちが復活した反キリストに従うようになります。
cf 黙示録13:12ーこの獣は、最初の獣が持っているすべての権威をその獣の前で働かせた。また、地と地に住む人々に致命的な傷の直った最初の獣を拝ませた。
cf 黙示録13:14ーまた、あの獣の前で行なうことを許された印をもって地上に住む人々を惑わし、剣の傷を受けながらもなお生き返ったあの獣の像を造るように、地上に住む人々に命じた。
私たちの主イエス・キリストに慣れ親しみ、主がなされたことをよく知ることが、反キリストを見抜くことに繋がります。しかし、反キリストが現われ、活動するのは、私たちが携挙された後の『患難時代』です。
ですから伝道も弟子訓練も先延ばしにすることなく、求道者をキリスト者へ、眠った霊的幼子を霊的覚醒させて霊的成人へと祈りつつ導かなくてはなりません。信仰の自由があるうちに…恵みの時代である教会時代のうちに…。
主の憐れみと御霊の導きがありますように。