モーセに率いられてエジプトを出たイスラエルの民は、シナイ山で律法の基礎となる『十戒』を与えられ、荒野で徐々に『神の民』としてふさわしく生きるための律法が整えられていきました。
もし彼らが律法違反をした時は、身代わりとなる動物のいけにえをささげることによって、その人の罪は覆われ、神との関係を回復するというのがモーセの律法の時代です。
しかし、モーセの律法の規定では、動物の血では贖いきれない(覆いきれない)罪がいくつかありました。たとえば…
①神への冒涜罪…レビ記24:16ー 主の御名を冒涜する者は必ずころされなければならない。全会衆は必ずその者に石を投げて殺さねければならない。在留異国人でも、この国に生まれた者でも、御名を冒涜するなら、殺される。
②偶像崇拝の罪…申命記13:6~10ーあなたと母を同じくするあなたの兄弟、あるいはあなたの息子、娘、またはあなたの愛妻、またはあなたの無二の親友が、ひそかにあなたをそそのかして、「さあ、ほかの神々に仕えよう」と言うかもしれない。これは、あなたも、あなたの先祖たちも知らなかった神々で、
地の果てから果てまで、あなたの近くにいる、あるいはあなたから遠く離れている、あなたがたの回りの国々の民の神である。
あなたは、そういう者に同意したり、耳を貸したりしてはならない。このような者にあわれみをかけたり、同情したり、彼をかばったりしてはならない。
必ず彼を殺さなければならない。彼を殺すには、まず、あなたが彼に手を下し、その後、民がみな、その手を下すようにしなさい。
彼を石で打ちなさい。彼は死ななければならない。彼は、エジプトの地、奴隷の家からあなたを連れ出したあなたの神、主から、あなたを迷い出させようとしたからである。
③両親への不敬罪…レビ記20:9ーだれでも自分の父あるいは母をのろう者は、必ず殺されなければならない。彼は自分の父あるいは母をのろった。その血の責任は彼にある。
出エジプト記21:15ー自分の父または母を打つ者は、必ず殺されなければならない。
出エジプト記21:17ー自分の父または母をのろう者は、必ず殺されなければならない。
④誘拐罪…出エジプト記21:16ー人をさらった者は、その人を売っていても、自分の手もとに置いていても、必ず殺されなければならない。
⑤霊媒・魔術を行う罪…レビ記20:27ー男か女で、霊媒や口寄せがいるなら、その者は必ず殺されなければならない。彼らは石で打ち殺されなければならない。彼らの血の責任は彼らにある。」
⑥偽預言の罪…申命記13:5ーその預言者、あるいは、夢見る者は殺されなければならない。その者は、あなたがたをエジプトの国から連れ出し、奴隷の家から贖い出された、あなたがたの神、主に、あなたがたを反逆させようとそそのかし、あなたの神、主があなたに歩めと命じた道から、あなたを迷い出させようとするからである。あなたがたのうちからこの悪を除き去りなさい。
⑦安息日違反罪…出エジプト記31:15ー六日間は仕事をしてもよい。しかし、七日目は、主の聖なる全き休みの安息日である。安息の日に仕事をする者は、だれでも必ず殺されなければならない。
⑧殺人罪…レビ記24:17ーかりそめにも人を打ち殺す者は、必ず殺される。
民数記35:21ーあるいは、敵意をもって人を手で打って死なせるなら、その打った者は必ず殺されなければならない。彼は殺人者である。その血の復讐をする者は、彼と出会ったときに、その殺人者を殺してもよい。
ざっと上げただけでもこれだけの罪は、罪を犯した本人の血を流すことが求められました。ここに『律法の欠け』があります。
すべての罪を動物の血では贖うことが出来ず、また、身代わりとなる動物を一度いけにえとしてささげたとしても、再び罪を犯せばまた動物の血によるささげものを必要としました。
ヨシュア記20章では、特に⑧殺人罪についての規定を記しています。
*ヨシュア…エフライム族出身のヌンの子ホセア(救い、の意)ー民数記13:8/後に、モーセによって『ヨシュア(主は救い、の意)』と名付けられましたー民数記13:16
モーセの死後、イスラエルの民を約束の地へ導き入れたイスラエルのリーダーです。
ヨシュア記20:2ー「イスラエル人に告げて言え。わたしがモーセを通してあなたがたに告げておいた、のがれの町をあなたがたのために定め、
*のがれの町…2~6節まで『のがれの町』の規定。民数記や申命記の律法の書ですでに定められていたものを、ここで確認されました。
そこにのがれて生き延びることができる殺人者は、殺意のない殺人罪、過失致死の場合のみ。
申命記19:3~4ーあなたは距離を測定し、あなたの神、主があなたに受け継がせる地域を三つに区分しなければならない。殺人者はだれでも、そこにのがれることができる。
殺人者がそこにのがれて生きることができる場合は次のとおり。知らずに隣人を殺し、以前からその人を憎んでいなかった場合である。
ヨシュア記20:3ーあやまって、知らずに人を殺した殺人者が、そこに逃げ込むことのできるようにしなさい。その町々は、あなたがたが血の復讐をする者からのがれる場所となる。
*あやまって、知らずに人を殺した殺人者…『のがれの町』に入って生き延びることができるのは、過失致死罪の場合のみ。
「イスラエル人に告げて、彼らに言え。あなたがたがヨルダンを渡ってカナンの地に入るとき、
あなたがたは町々を定めなさい。それをあなたがたのために、のがれの町とし、あやまって人を打ち殺した殺人者がそこにのがれることができるようにしなければならない。
ヨシュア記20:4ー人が、これらの町の一つに逃げ込む場合、その者は、その町の門の入口に立ち、その町の長老たちに聞こえるように、そのわけを述べなさい。彼らは、自分たちの町に彼を受け入れ、彼に一つの場所を与え、彼は、彼らとともに住む。
過失致死罪の者が『のがれの町』に入る時には、町の入り口のところで大声で長老たちに逃げてきた理由を述べなければならなりません。
『のがれの町』に避難する理由は、さばきのために会衆の前に立つ前に、被害者の家族から復讐されて死なないないため。
民数記35:12ーこの町々は、あなたがたが復讐する者から、のがれる所で、殺人者が、さばきのために会衆の前に立つ前に、死ぬことのないためである。
ヨシュア記20:5ーたとい、血の復讐をする者がその者を追って来ても、殺人者をその手に渡してはならない。彼は知らずに隣人を打ち殺したのであって、以前からその人を憎んでいたのではないからである。
『のがれの町』に逃げ込めるのは、殺意のない殺人者のみ。
民数記35:13~15ーあなたがたが与える町々は、あなたがたのために六つの、のがれの町としなければならない。
ヨルダンのこちら側に三つの町を与え、カナンの地に三つの町を与えて、あなたがたののがれの町としなければならない。
これらの六つの町はイスラエル人、または彼らの間の在住異国人のための、のがれの場所としなければならない。すべてあやまって人を殺した者が、そこにのがれるためである。
*ヨルダン川のこちら側…ヨルダン川の東側(現在のヨルダン王国)に三つの『のがれの町』を設けました。
そこは、マナセの半部族、ガド族、ルベン族の相続地となった地です。
*カナンの地…ヨルダン川の西側(現在のイスラエル)に三つの『のがれの町』を設けました。
ヨシュア記20:6ーその者は会衆の前に立ってさばきを受けるまで、あるいは、その時の大祭司が死ぬまで、その町に住まなければならない。それから後、殺人者は、自分の町、自分の家、自分が逃げて来たその町に帰って行くことができる。」
過失致死罪の者が『のがれの町』にいる期間は、
①会衆の前に立ってさばきを受けるまで。
もしくは
②その時の大祭司が死ぬまで、のどちらか。
その後は、自分の家、自分が逃げて来たその町に帰って行くことができました。
また、会衆の責任は、⬇︎
民数記35:22~25ーもし敵意もなく人を突き、あるいは悪意なしに何か物を投げつけ、
または気がつかないで、人を死なせるほどの石を人の上に落とし、それによって死なせた場合、しかもその人が自分の敵でもなく、傷つけようとしたのでもなければ、
会衆は、打ち殺した者と、その血の復讐をする者との間を、これらのおきてに基づいてさばかなければならない。
会衆は、その殺人者を、血の復讐をする者の手から救い出し、会衆は彼を、逃げ込んだそののがれの町に返してやらなければならない。彼は、聖なる油をそそがれた大祭司が死ぬまで、そこにいなければならない。
ヨシュア記20:7ーそれで彼らは、ナフタリの山地にあるガリラヤのケデシュと、エフライムの山地にあるシェケムと、ユダの山地にあるキルヤテ・アルバ、すなわちヘブロンとを聖別した。
*ケデシュ…聖所、の意。ガリラヤ湖の北方にあるフーレ湖の北西7km
ヨシュア記20:8ーエリコのあたりのヨルダン川の向こう側、東のほうでは、ルベン部族から、高地の荒野にあるベツェルを、ガド部族から、ギルアデのラモテを、マナセ部族から、バシャンのゴランをこれに当てた。
*ラモテ…高い所、の意 。ラモテ・ギルアデと同地
1列王記4:13ーラモテ・ギルアデにはゲベルの子。ーー彼にはギルアデのマナセの子ヤイルの村々と、バシャンにあるアルゴブの地域で、城壁と青銅のかんぬきを備えた六十の大きな町々が任せられたーー
ヨシュア記20:9ーこれらは、すべてのイスラエル人、および、彼らの間の在留異国人のために設けられた町々で、すべて、あやまって人を殺した者が、そこに逃げ込むためである。会衆の前に立たないうちに、血の復讐をする者の手によって死ぬことがないためである。
*在留異国人…エジプトの地で奴隷となっていた異邦人で、イスラエルの民とともにエジプトを出て、共に約束の地に入って来た者、ラハブのようにイスラエルの民に益となることをしたカナン人、ルツのように外国からイスラエルの地に移住して来た者など。
彼らは『のがれの町』に関して、イスラエル人と同じ特権にあずかる者となりました。
出エジプト記12:37~38ーイスラエル人はラメセスから、スコテに向かって旅立った。幼子を除いて、徒歩の壮年男子は約六十万人。
さらに、多くの入り混じって来た外国人と、羊や牛などの非常に多くの家畜も、彼らとともに上った。